月夜見 
残夏のころ」その後 編

     “ほっかほかのvv”


元日、三が日、松の内に小正月と、
一月もさすがに半分を過ぎれば、
正月気分も拭い去られてしまうもの。
センター試験が始まったねとか、札幌の雪祭りが近いねとか、
寒さも増すよ、インフルエンザには気をつけなきゃあ、
うがいより手洗い、お部屋の乾燥にも要注意…などなどと。
本格化する冬本番へ向けての話題が取り沙汰されもする頃合い。
今年もやっぱり豪雪の冬なのか、
早くもあちこちで
この冬一番の積雪というお声が聞かれており。

 「おでんの店頭販売は秋からあったけど、
  蒸かしまんがよく売れ出すのは、やっぱこの時期からだよねぇ。」

イートインこそないけれど、
それでも、店頭の…買い物をトートバッグへ詰め直すスペースを、
少々広めにとっての待ち合いにしてあったところにて。
コンビニほどの規模じゃあないが、
それでもおでんや肉まんを売っていて。
店先には月替わりで、
路販車のホットドッグ屋さんやタコ焼き屋さんが来たりするのに合わせ、
近隣のガッコへ通う学生さんの、
ちょっとした寄り道ルートにもされてるほどだったりする
直売マーケット『レッドクリフ』なのだけれど。

 「ルフィちゃんは カレーまんは食べないのかい?」
 「う〜ん、カレーはやっぱカレーパンがいいからさvv」

熱っつあつな蒸かしまんを、
少し分厚いクラフト紙の袋へ幾つも詰めてもらってた、
当店自慢の売り子の坊や。
今時は蒸かしまんにも色々あって、
甘いクチならこしあんしかなかったのも今は昔。
チョコレートクリームあんとか、カスタードあんとか、
カボチャあんに白いんげんあんなどなどと、
そのバリエーションもスィーツ並みに豊かになっており。
調理系、いわゆる肉まんにしてみても、
カレーやピザ風味なんてのは序の口で、
豚キムチ味に甘辛な肉味噌、
ビーフシチュー風なんてのもあると聞くし、
本格的な角煮が入っていたり、
中華街ばりにフカヒレが入ってたりする品もあるらしいけれど。

 「俺、おばちゃんのニラまんじゅうが一等好きだしvv」
 「おや、嬉しいねぇ。」

少し小ぶりな、和菓子のお饅頭という大きさの、
いわゆる“お焼き”風のまんじゅうも置いてあり。
こちらにパートで勤めておいでの奥様たちが
チームを組んで売り出しているメニューがそれで、
これもまた、ヘルシーだしスタミナが付くと、
若い層にもよく売れている。

 「今頃の子は、女の子でもモツ煮込みとか食べるっていうしね。」
 「匂いがいやだなぁって言う子もいるけど、
  買い食いでなく、お持ち帰りする子は多いしねぇ。」

屈託なくお喋りしている彼もまた、
昼までのバイトを終えての帰るところで。
帰り道々で昼食かねがね食べるのか、
じゃあと歩きだす足元が、微妙に嬉しそう。
口元からの吐息が随分と白いのは、
既に 最初の1個へかぶりついた後からだろが、

 「おーい。」
 「んん?   ……ふがっ☆」

掛けられたお声へ、何の気なしに振り返り、
そこに立つお人へあわわと驚いたのは、もはやお約束だろか。
スーパーの裏方用出入り口、
スィングドアの前に立ち、
ルフィ坊やが通るのを待ってたらしいお兄さん。
上背のある短髪の青年が、
手にしていた赤いマフラーを振って見せ、

 「先輩、これ忘れてましたが。」
 「あ、いっけね。」

手ぶくろはしょうがないなぁと諦めるが、
これはどっかに置き忘れてくんじゃないよと、
母からきっちり言われてた。

  ……という事情を、
  その母上の弟にあたり、
  彼からは叔父でもある
  シャンクス店長から注意されていたの。
  朝から出勤していた顔触れ全員が
  色んな形で知っている恐ろしさ

  ……は ともかくとして。

搬入班の目印でもある、グレーの作業服の襟元から、
今時のこの年頃の子には珍しい、
少し厚めのとっくりセーターを覗かせていて。
他のバイトたちから 手編みかどうかを取り沙汰されてた
それをこそ、こっちの坊ちゃんもまた、
ちらりんと気にかけていたのだけれど。

 「今から上がりっすか?」
 「え? あ、うん。」
 「何なら軽トラで送ってきますよ?」

俺も上がりで、それに通り道ですしと、
素早く、しかも さりげなく付け足すことで、
ついでで悪いっすが…とする格好の陰ながら、
手短かに“気にしないで”とする心遣いが心憎い。

 「あ…えと、うん……。////////」

  じゃ、じゃあ、送ってもらおっかな。
  あ・そだ、これ食えよ。
  凄げぇ美味いぞ? まだ温ったかいしよ、と。

それは無邪気にお勧めする様子が、
何でだろうか、
いつもの腕白ぶりとは微妙に雰囲気が違っててサvvと。
店頭担当のお母様たちが、
夕方担当の皆さんへの引き継ぎのおり
ついでに伝えたもんだから。
奥様の口コミ(?)の恐ろしさ、
睦まじく帰ってった様子が
あっと言う間に店じゅうのクルーらへ
広まったのは言うまでもなくて。

 『ルフィもなぁ、ちっとは演技力とかつけりゃいいのによ。』
 『ダメでしょうよ、そういうの。』
 『そうそう。
  目の前に居んのへ ボロ出したくないってので
  いっぱいいっぱいでしょうからね。』

何をどこまで判っておいでか、
もしかして当人同士よりも判っておいでかも知れぬ
周囲の大人たちに見守られ。
今年も やっぱり焦れったいままの二人なようで。


  よろしかったら
  どうぞお付き合いのほどを……。





   〜Fine〜  2012.01.19.


  *蒸かしまんを
   “肉まん”と呼ぶか“豚まん”と呼ぶかで、
   西の人かそれ以外の人かが判ると、
   以前どっかで触れましたが。
   関西の人は
   “551”のと それ以外という呼び分けもしております。
   コンビニのも美味しいのでしょうが、
   551のは 別格でございますればvv
   タコ焼きやお好み焼きもいいですが、
   難波や神戸においでの折には、
   是非ともお運びいただけると幸いですvv
    注意:わたくし、関係者ではございません。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

bbs-p.gif**


戻る